第2章 ***
「成瀬、聞いたぞ?昨日C組の池田さんに告白されたんだって?」
「………」
朝からそう声を掛けてきたのは、クラスメイトの早坂だった。
一体どこでそんな話を聞いてきたのか…
「で、なんて返事したんだ?」
「断ったよ…彼女の事あまりよく知らないし」
「マジかよ!あんな美人に告白されて断るとか、信じらんねぇ…」
そんな事を言われても…好きでもない相手と付き合うなんて俺には出来ない。
それに俺は…
「いいよなぁお前は…。顔も良くて頭も良くてスポーツ万能で女も選び放題。俺だってそんな風に生まれてたら、きっと人生変わってただろうに…」
「………」
「お前って悩みとかあんの?」
「…当たり前だろ」
「えっ…マジで?どんな悩み?」
「…秘密」
「ちぇっ…」
そう口を尖らせる早坂…一体俺を何だと思っているのだ。
俺にだって悩み事くらいある。
他人には絶対に打ち明けられない事だけれど…
「あら飛鳥くん、お帰りなさい」
「っ…」
学校から帰宅すると、マンションの入り口で意外な人と顔を合わせた……隣人の水戸さんだ。
「今日は早いのね。部活お休み?」
「はい…もうすぐテスト期間なので」
「そっかぁ…。でも飛鳥くんは優秀だって聞いてるわよ?」
「…そんな事ありません」
そう他愛ない会話をしながら2人でエレベーターに乗り込む。
ふと漂う彼女の甘い香りにドキリと心臓が跳ねた。
何を隠そう、俺はこの人――水戸かすみさんに恋をしている……それが今の一番の悩みだ。
何故なら彼女は"人妻"なのだから…
「今日はずいぶん大荷物ですね」
水戸さんの提げているスーパーの袋を見て思わずそう言った。
すると彼女は少し照れ臭そうな顔をして…
「出張で家を空けてた旦那が2週間ぶりに帰ってくるの。だから今日は豪勢な夕食でも作ろうかなぁと思って」
「そうですか…」
あからさまに落胆してしまう。
そんな話なら聞きたくなかった…
「それじゃあ飛鳥くん、またね。お勉強頑張って」
「はい…ありがとうございます」
そう挨拶して彼女と別れる。
2人きりで話せた事自体は嬉しかったが、何とも言えない複雑な気持ちにもなった。
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