第1章 夕暮れの図書館
2人で向かい合わせに座る図書館の机。
ひんやりとする机の温度が火照る心中を冷ます。
2人の間に積み上げられた何冊もの本がお互いの表情を隠していた。カチカチと秒針の音だけが響く室内でリョーマは頰杖をついて妨げるそれを見つめ口を開けた。
「ねえ、これ邪魔だよね」
音を立て椅子から立ち上がりリストバンドをした左手でそれを勢いよく机の上に滑らせる。
バサリと普段ならすぐ拾い上げるような焦る音には見向きもせずそのまま机に乗り出し学ランの金ボタンがカチャリと音を立てる。
「なにそんな顔してんの」
越前リョーマ得意の勝ち誇ったような表情で目線の先を大きな目で見つめる。
長めの前髪から見える瞳の大きさ。さらりとした髪の毛が彼の耳と頬を僅かに隠す。
「ふーん、そういう目で見てくるんだ」
さらに顔を近づけ彼の吐息さえ愛しく感じる距離。
リョーマはついた両手を少しだけ彼女の方にずらしこう告げた。
「そのまま動かないでよ」
そう言葉を発したあと、唇が重なるまで時間はかからなかった。体温を上昇させた彼の行動はもう一段階進むと思われたが、すっと身体をひく。
両手を机につけたまま顔を逸らしたリョーマは言った。
「これ以上は、……俺が……」
カタンという音とともに椅子に座り僅かに身体を斜めに傾け散らばった本を手に取ってパラパラとめくりながらまた頰杖をついた。
リョーマの黒い学ランに少しだけ優しい陽の光が当たる冬の午後だった。