第5章 和解のカステラ
「中学の話聞いていたか?」
「どういうこと?」
「振った時の言葉。」
『……すまねぇ。今は無理だ。』だよね?その後、高校でも無理だ。て言っているし……。
焦凍くんを眺めながら首を縦に振った。すると頭を撫でられてもっと疑問が深まった。この人はなぜ私の頭を撫でているのだろうか?
「言葉が足りなかったけれど、それ……、」
「それ?」
「大人になったら付き合おう。て意味だ。」
は、はい?理解はできないけれど、少し分かった気がする。それにしても言葉が足りな過ぎるでしょう。
呆気にとられたのか、涙は引っ込んだけれど目の見開きはしている。
「焦凍くん、それって言葉足りな過ぎるじゃ……。」
「あぁ、お前の告白で頭いっぱいだった。」
この男は!!
忘れていた、この人はぽやっとしているから少しズレていることを。それも可愛いのだけども、今回は私、振り回されすぎな気がしてきた。
抱きしめられていたが、スルリと抜けてその場でしゃがみこむ。
嫌、私もちゃんと考えてば良かったけれど幼すぎた。
「お。」
「お。じゃないよ、焦凍くん!私がどんだけ泣いたことか……。それでも、今回の件は呑み会台無しにしてごめんね。」
それだったら、次の日でもちゃんと会って言えばよかった。本当に大人になっても私達、幼馴染みは何も変わってない。変わったとしたら、容姿やほんの少し大人になった性格。ただそれだけだ。
「嫌、咲と話してぇと思っていたから別に良い。」
「本当にストレートに言うね、焦凍くん。」
不意にもキュンっときてしまった。顔が上げられなくてずっと玄関のタイルと目が合っている。
「咲、顔上げてくれねぇか。」
耳元で焦凍くんの声が聞こえて、ゆっくりと顔を上げるとおでこに暖かい感触が急にやってきた。
びっくりして、また目が見開いだ。その様子を見て、焦凍くんは笑っている。
「一緒にカステラ食べねぇか。」
「……うん!」