第3章 甘いカステラ
「な、なんで……?」
夏になるのに声が震えていて、まるで寒い冬に話したようだ。でも、それでも言葉を振り絞ったのは一言しか出ない。
「俺ばっかり浮かれていて、お前に迷惑かけていただろ。」
「迷惑なんてそんな。」
「だって、避けてたじゃねぇか。」
避けてなんかない。なんて言い切れなかった。
昔の振られたのがプレイバックされて、避けていたのが心当たりがあるからだ。下を向き、ぎゅっと己の手を握りつぶす。
「……本当にすまねぇな。バカ父親にも言っておく。」
「ま、待って!!」
手を掴もうとしたが、弾き返された。そして、そのまま焦凍くんは居酒屋の方へ向って歩いていく。
だめだ、今行かないと焦凍くんは勘違いしたまま行ってしまう。
走り出して、焦凍くんの手を掴むだ。今度は、弾き返されないように。
「焦凍くん、一緒にカステラ食べない!?」
「は、何言ってるんだ。なんでカ……。」
「お願いします。」
今、逃したらどこかに焦凍くんが行ってしまう。またごちゃごちゃな関係になってしまう。お互いに勘違いしたまま。そう思うと涙が溢れそうになり、目に溜まっていく。
本当に私って卑怯だし、泣き虫だし……いつもいつも焦凍くんを困らせていた。
すると焦凍くんはスマホを出し、どこかに電話をかけ始めた。あまり分からないけれど、分かったことは「家に帰らせてもらいます。」という言葉だった。
本当にごめんね、迷惑かけているのは私の方だよ。その真実にも目尻が熱くなり泣きそうになった。
甘い甘いカステラは、焦凍くんとの誤解を溶ける事は出来るのか分からない。でも、今は和菓子ということに頼るしかなかった。