第4章 【03】鳥籠のジュリエッタ
セリオーネファミリーの一件から早二ヶ月が過ぎた。ヴァリアーは違約金をたんまりと貰って事を収めていた。関係者のなかには彼らの行為は行き過ぎていると指摘する者もいたが、ヴァリアーの名と事の発端はセリオーネ側にあるという事実から結局ヴァリアー側の行為は正当であると判断されたのだ。
「ルッス姉さん、次の出発は何時だっけ?」
「二時間後よ。それまでに下準備済ませておいてね~」
「ん、了解!」
氷雨はそう言って頷くとパタパタと早足で走り去っていく。その手には茶封筒が二つも三つも抱えられていた。彼女は腕時計で時間を確認すると、まずは報告書を出さなければと思ってボスのいる部屋へと向かう。
部屋の前で一度深呼吸、そして扉をノックする。
「ボス、報告書を提出に来ました」
「入れ」
失礼します、と声を掛けてから部屋の中に入ると、氷雨は室内の気温が急に下がったような錯覚を覚える。しかし、実際は気温が下がったわけでもなんでもない。
部屋の主――XANXUSは、真紅の瞳で氷雨を一瞥すると「そこに置いておけ」と机の端に詰まれた書類の山を顎で指した。
「不穏な動きは?」
「特にありません。ただ……」
「どうした。言ってみろ」
口ごもった氷雨に対してXANXUSは言葉の続きを促す。しかし、その視線は彼女でなく手元の書類に向けられていた。相手の視線が向けられていないことに氷雨は密かに安堵してしまう。彼の眼光の鋭さに彼女はまだ慣れていなかった。
ヴァリアーの現ボスであるXANXUSと氷雨が初めて対面したのは、二週間ほど前のことだ。5年前にヴァリアーへ入隊した氷雨はXANXUSの名も顔も知ってはいたが、面と向かって話したことなどなかった。一生話すこともないのではないかと実は思っていた。
しかし、XANXUSは帰ってきたのだ。どうやって帰ってきたのか、今までどうしていたのかは彼女の知る由もない。ヴァリアーのボスの座に返り咲いた彼は、氷雨に目をくれる様子もなく「ボンゴレを手に入れる」と言った。
それ以来、ヴァリアーは俄かに忙しくなっている。