第31章 主よ甘き日々を終わりまで2(烏養繋心)
いつ初めて見たか忘れたが、体育館に行く前に暇潰しで覗いた校舎内にその女はいた。
店にもたまーに買い物する娘で、美人というわけでもないが若干気にはなっていた。
察しが良い方ではないが、一人暮らしでもしてるかのような買い足しが多く、いつも夜遅くまで近くのスーパーでバイトをしているようだった。
午後の授業はさぞかし眠かろうに、二階か三階の窓からすやすやと寝息が聞こえてきそうなほどに気持ちよさそうに眠っていた。
買い物に来る時もやたら大人びていて、制服を着ていないとわからなかっただろう。
そんな彼女が、数ヶ月前に、公園で呆けていた。
夜中近くに。
(あっぶねぇな、こんな時間に……)
不審人物かと思われるのもな…と思いつつ、なんとなく無視できず、声を掛けた。
「家に帰らねえのか?」
「!!」
自分よりデカい男に声を掛けられるのはさぞ怖いだろう。
驚いた顔をして固まっている。
「…あ!いえ、あの…借りてたアパートが取り壊しになっちゃって…」
おずおずと少女はゆっくりと話し始める。
「実家住まいじゃねえのか?」
「そう、なんです…。
私の年齢だと借りれるところなんて無くて…なんとか頼み込んで住んでいた場所だったので……」
はぁ、と小さくため息を吐き、学生カバンを抱え直している。
「うちで、住み込みバイトでもするか?」
言ってしまってから、自分が何を言ってるのかと驚く。
「…いや、急にこんなこと言われても困るよな…?」
はは、と誤魔化すように笑うが、彼女ははっとした顔をしてこちらを見上げてくる。
「い、いいんですか……!?」
その顔があまりにも儚く、思わず二言返事をしてしまった。
うちの親にも無事受け入れられ、空き部屋を片付けて寝る場所を作ってやった。
久々のまともな食事にぽろぽろと涙を流し、2年ぶりの浴槽に浸かったと笑顔だった。
そんな、年相応な表情もまた可愛いと思った。