【千銃士】笑わないマスターとfleur-de-lis.
第2章 罪と罰の澱の中で
――マスター?
いつものシャツにパンツ、皮のブーツ姿だ。
暗褐色だったから余計闇に溶けてみえなかったらしい。
「シャルル」
「ひゃ、ひゃい!」
まだドキドキが収まらなくて思わず噛む。
マスターは多分変な顔をしているだろう俺に首をかしげる。
モンデュ(omg)!
「どこか具合が悪いならみせて」
マスターが距離を詰めてきた。
ふわりと夜風に揺れた髪から何だかいい匂いがするし、リスみたいなまん丸の目で見つめられると意味もなくドキドキが強くなる。
「大丈夫だよ」
多分……ドキドキしてるだけだし。
「私、思ったんです、今日」
マスターが目を伏せながら云う。
「うん?」
「私は貴銃士のメディックで……その健康管理を任されているのに、メンタルケアが出来ていなかったなぁと思いまして」
ああ、ベスくんを泣かせちゃったのを気にしてるワケね。
泣いちゃったベスくんの気持ちは分からないでもない。あの人はマスターの前ではずっとカッコ良くありたいんだ。
まあ、俺だって違いないけど……俺はカッコ良く散るよりカッコ悪くていいからマスターと生きたいし。
「俺は大丈夫だよ。タバティやシャスポーとかにあたってみたら?」
まだ食堂にいるはずだよ、と手で示せばマスターはびくっと震えた。
マスターはタバティエールやシャスポーには何だか弱いんだ。
前に営倉に入れた上に無視したのをひどく気にしているらしい――とはベスくん情報だ。
「そうします。シャルルも」
「うん?」
「何かあったらすぐ、特に無くても何でも話してくださいね」
俺の返事を待たずぺこ、と頭を下げマスターは俺が出てきた食堂へ向かっていった。
ほんと熱心だよねは、さ。