第3章 洒涙雨
【智】
潤の好きな熱めのシャワーを頭から浴びながら、俺は浴室の床に座り込んでいた。
体中についた赤い痕は、潤の心の傷から溢れ出した血の華のようにも思えて。
また、涙が溢れた。
どうして、こうなっちゃったんだろう…
付き合いだした頃は、二人一緒にいられればそれだけでよかった。
確かに、潤から告白されるまではそういう目で見たことはなかったけど、一緒にいるうちに、潤のこと、本当に好きだなって思えて。
そんなに頻繁ではないにしても、ちゃんと気持ちを伝えてきた筈なのに。
いつしか潤は、俺の言葉を信じなくなってしまった。
俺じゃなくて、他の奴らの言葉に惑わされたり、勝手に一人で不安がったり…
俺のなにかが、そうさせるんだろうか?
もっとずっと一緒にいてやれば、不安はなくなるんだろうか?
…そんなの、無理に決まってる…
一緒にいても苦しいだけなら、いっそ一緒になんていない方がいいのかもしれない。
たとえそこに愛があるとしても。
愛があるから苦しむのなら、そんなの必要ないのかもしれない。
いっそ、別れてしまえば…
そこまで考えて、俺は無意識に自分で自分の体を抱き締めた。
やだ…
やだよ…
潤と別れるなんて…
思考の迷路に嵌まりこんだ俺は、長い時間シャワーを浴び続けて。
考え過ぎてオーバーヒートしたみたいにぼんやりとした頭で、ようやくシャワーを止めた。
足元が覚束なくて、壁伝いに戻ったリビングには、潤の姿はない。
開け放たれた寝室から、微かなイビキが聞こえてくる。
まだ、いた…
帰っていなかったことに少しホッとしながらも、彼の腕の中に戻る気にはどうしてもなれなくて。
俺は髪の毛も渇かさず、リビングのソファの上に倒れ込むようにして寝転がった。
…潤…
俺たち、どこへ行くんだろう…
遠ざかる意識の中、届かない問いを繰り返していた。