第2章 朧雲
暫くして、バタバタとマネージャーがやって来て。
一緒に来た見知らぬおじさんに、シャツを開けられ、あちこち聴診器を当てられた。
「う~ん…所見ではどこにも悪いところは見当たらないですが…」
おじさんは、そう言って頻りに首を捻りながらも、なにかよくわからない錠剤を置いて帰っていった。
「…疲れかもしれないですね。ここのところ、スケジュール詰まってましたし…」
マネは困ったなぁ…なんて呟きながら、あちこちに電話を掛けている。
今日も明日も仕事入ってたから、スケジュール調整をしているんだろう。
「大丈夫?雅紀…ごめんな?具合悪いのに、怒鳴ったりして…」
ニノは申し訳なさそうに、しょんぼりと項垂れた。
「ううん…俺の方、こそ…ごめ…」
ごめんな…
ニノ…ごめん…
「なんで、おまえが謝るんだよ。ほら、着替えて寝てろよ。傍に付いててやるから」
「…ん…」
背中を支えられながらなんとか体を起こす。
着ていたシャツを脱ごうとしたが、覚束無い手元ではなかなか出来なくて。
ニノが、手を貸してくれた。
「…ありがと…」
お礼を言いながら振り向くと。
ニノは、まるで幽霊でも見たような、恐怖に引き攣った顔をしていた。
「え…なに…?どうかした…?」
なんでそんな顔をしてるのかわかんなくて、思わず訊ねる。
だけど、彼の視線は俺の背中から微動だにしない。
背中…
なんかあるのかな…?
「…ニノ…?」
不安になって手を伸ばすと、指先が触れた瞬間、ビクリと震えて。
近くにあった着替え用のTシャツを、性急な動作で頭から被せてきた。
「ほら!さっさと、寝ろ!」
吐き捨てるように言って、無理やり俺をベッドに寝かせ、布団を掛けて視線を逸らす。
「ニノ…?」
その後、何度呼びかけても。
ニノは俺と視線を合わせようとはしなかった。