第8章 淫雨
【雅紀】
「一度チェックするので休憩入りま~す」
スタッフさんの声に、松潤は俺にくっつけてた体をすっと離した。
撮影のために浮かべてた笑みも一瞬で消して、スタスタと控室に戻っていく。
いつもなら、現場に残ってスタッフさんと話をしてるのに…
やっぱり、いつもの松潤じゃないっ!
「待ってよ、松潤!」
慌てて、その背中を追いかけた。
肩を強く掴むと、ヒドく迷惑そうな顔で振り向く。
「なに?」
そんな顔
最近じゃ俺たちに向けたことなんかなかったのに…
「なに、じゃなくてさっ!」
「じゃあ、なに?」
「だからっ…」
あ~、もうっ!
なんて言えばいいんだよぉっ…!
俺、こういうの苦手なんだけど~っ!!
「用がないなら、離してくんない?痛いんだけど」
上手く言葉が出てこなくて口籠もった俺の手を、パシンと叩き落とし、また控室へ歩き出した。
「待ってってば…!」
また追いかける。
松潤が、逃げるように早足になる。
俺も追いつこうと小走りになって。
最後はなぜか競争するように、控室へ飛び込んだ。
「…っは…なん、なんだよっ…!」
息を切らせながらドアを閉めた松潤が、ギロリと俺を睨んだけど。
「ぶっ…あははははっ…!」
なんで追っかけっこなんかしちゃったのか、意味分かんなくて。
俺は盛大に吹き出しちゃった。
「なっ…!なに笑ってんだよっ!」
「だ、だぁってさぁっ…ぶっ…ぶぶぶぶっ…」
「はぁ!?意味わかんねぇしっ!」
松潤は、笑い転げる俺を訝しげに見てたけど。
やがて、ふっと表情を緩めて。
「ホント…相葉くんってスゲー…」
微かにだけど、微笑んだ。
そんな顔
すごく久しぶりに見た気がした