第6章 霧海
【雅紀】
「帰るよ、雅紀」
「うん!じゃあね!お疲れっ!」
3人の「お疲れさま」の言葉を背に、ニノの背中を追って楽屋を出た。
「ねぇねぇ、今日は夕飯どうする~?」
「…なんでもいいや、別に」
話しかけても、ニノはこっちを向くこともなく、スタスタと前だけを向いて歩いてく。
「なんでもってことはないでしょ~?なんか食べたいもん、ある?今日は早く終わったから、俺が作るよ!」
「じゃあ、ハンバーグ」
「オッケー!」
すれ違う人に笑顔で挨拶しながら、エレベーターに乗って。
ニノの車の置いてある地下駐車場へと向かった。
「今日はちょっと豪華に、チーズ入りにしちゃおっかな~!」
「…あっそ…」
エレベーターに乗った途端、ニノの顔からは笑顔が消えて。
物憂げな表情で、壁に背を預け、視線を落とす。
「付け合わせは、ポテトサラダでいい~?」
「…なんでもいいよ…お前、煩い」
わざと声を張って訊ねたら、今度は不機嫌そうにそう言われて。
俺は思わず口を噤んだ。
『…おまえと別れるなんて、無理』
あの日、微笑んでそう言ったニノを、俺は強く抱き締めた。
顔は笑ってんのに、声は震えてて。
細められた瞳から、今にも大粒の涙が零れ落ちそうで。
心臓が、引き裂かれそうに痛んだ
もう、やめよう
翔ちゃんに会うのは、もうやめる
ニノを苦しめて
泣かせて…
罵声を浴びせられても、ごみくずのように捨てられても仕方のないことをした俺を、許してくれた
もうこれ以上、ニノに苦しい思いをさせたくない
俺にとって一番大事なのは、ニノなんだって、それがわかったから…