第2章 繊月
ここは家康の御殿の一室
特にすることもなくボーッと
与えられた部屋から外の景色を見ている
庭園にも廊下にも埃一つ落ちていない
この世界に来て約1年
毎日を必死に過ごしてきた
居候として、養女として期待に応えようと
教えられたことを必死に身につけ
本来の性格を覆い隠して"葉月姫"を演じている
『暇だなぁ....』
初日に佐助に連れ去られて
一人での外出は禁じられてしまい
ずっと部屋に籠っていたがさすがに飽きてきた
「葉月様どちらに行かれるのですか?」
部屋から出ようとすると
廊下で控えていた侍女が声をかけてきた
私の専属の侍女になった子、名前は鈴。
『少し庭を散策に出ます』
「では、履物をご用意致します」
鈴に用意してもらった草鞋を履き庭に降りた
歩いているとタァーンと矢を射る音が聞こえた
音がする方へ近づいて行くとそこには弓を構える家康の姿があった
『(綺麗な構え)』
「...何か用」
暫く家康の姿を見つめていると
こっちを振り向きもせず声をかけられた
『いえ、矢を射る音が聞こえてここへ来ました』
「ふーん、そう」
手拭いで汗を拭う家康のそばまで歩いて来た
『.....あの』
「なに」
『私も...矢を射ってもよろしいでしょうか?』
「好きにすれば」
『ありがとうございます』
スッと持っていた弓をこちらに差し出され受け取った
的まで28メートル、弦を引き神経を研ぎ澄ませる
タァーンと的の中心に矢が刺さる
『(よし、鈍ってない)』
「よう元気にしてるか?」
もう1本射ようと弦を構えた時後ろから声が聞こえてきた
『あら政宗様、お久しぶりです』
「"政宗"だ様は要らねえ、あと敬語も
なあ、家康?」
「何で俺にふるんですか」
『よろしいのですか?』
「...桜花もそう呼んでる
良いんじゃない」
ぷいっとそっぽを向きながら言った
『ありがとう......家康』
「別に」