第5章 今更
シルクside___
「久しぶりかも、シルクの部屋」
モトキはそう言って、俺のビールを飲み干した。
……いや、俺のビールだわ。飲み干すな、勝手に。
「……あれ、珍しくツッコまない」
ダホが笑いながらそう言って、俺は吠える犬のように〝心の中でツッコんでんだよ!〟とツッコんだ。
……訳わかんなくなるな、これ。
「まあまぁ、そんなに喧嘩しないで……」
わざとらしく恋奈とモトキがそう言う。
腹立つな、お前ら……と思いながらも抑えて、俺は棚から布団を出した。
__相変わらず、恋奈は楽しそうで輝いている。
俺と二人になってからも、今こいつらが来た時も。
同じ笑顔ではないし、根本は違うだろうけど、どこかキラキラしていた。
あの村では、どうだったんだろうか___
ふと、そんな考えがよぎる。
あの村の生活などは、恋奈から特に聞いていない。
そもそもあの村の存在は ニュースや新聞の記事でしか見た事がなかったし、正直 恋奈を助けた時の村の風景なんて、覚えてもいない。
……でも、たった一つ、まるで鉄のハンコを押されたように脳へと焼き付いたのは、恋奈の絶望的な顔だった。
あの時、どこにも焦点の合っていない人形みたいに、暗闇を宿した眼を俺に向けたんだ。
恋奈は、俺らが思う以上に__俺らが傷を癒せないほどに。
重い何かを背負って、これから生きていくのかもしれない。
「シルク? どうしたの?」
手は動かしながらも、口を噤んで黙っていた俺に気付いたのか、恋奈は俺の顔を覗き込んできた。
そんな心配そうな顔で、俺の顔見んなよ。
「なんでもねーよ。さ、寝るぞ!」
どんっとふかふかの布団に飛び乗るが、予想以上に冷たかった。多分、ずっと棚に入れていたからだろう。
脳も体も冷えて、一気に目が醒める。
ダホ達は、「俺も俺も」と一斉に布団に飛び乗った。
衝撃がどんっと来たはずなのに、そこまで認識はなくて。
「……やっぱ、何でもねーかもな」
と、俺は乾いた喉で笑った。
生贄のお姫様とか。
俺らのお姫様とか。
どこかのお姫様とか。
なんて、お前には何でも似合うんじゃねえのかなって。
黄昏気味に考えていた俺の意識は、いつの間にか夢へと落ちていった。