第8章 運命論者の悲しみ
重たい瞼を開けてみれば、其処には見慣れない天井が広がっていた。
「…!?」
「…起きたか、小僧」
国木田の声に、敦はがばりと半身を起こした。どうやらここは、事務所の医務室らしい。
「…そうだ…僕はマフィアに襲われて…国木田さん!!谷崎さんたちは!?」
「安心しろ。二人は無事だ。谷崎は今隣で与謝野先生が治療している」
―――「ギャアアアアアアアア」
「…え…?」
隣部屋から聞こえてくるいたたましい悲鳴に、敦の額から冷や汗が流れ落ちてくる。
「治療…ですかこれ…」
「訊いたぞ小僧。お前は裏社会の闇市で、七十億の懸賞首になっているらしい」
「え?」
「七十億か。出世したな。ポートマフィアが血眼になるわけだ」
「ど、ど…どうしましょう!?マフィアがこの探偵社に押し寄せてくるかも…!どうして僕が!!」
「うろたえるな。確かにポートマフィアの暴力は苛烈を極める。だが動揺するな。動揺は達人をも殺す。師匠の教えだ」
しかし、敦は気付いてしまった。
国木田が持っている手帳が・・・逆さまだということに。
「…あの…さかさまですよ…手帳」
「…!?!?」
国木田はその言葉にゆっくりと手帳を回し、椅子から立ち上がった。そして敦に近付き、大きく息を吸い込んだ。
「俺は動揺などしていない!!!!マフィアごときで取り乱すか!!たとえこの瞬間に襲撃されようと俺が倒すわ!!」
「(…国木田さん…相当焦ってる…!!説明がわやわやだ…相当この探偵社が危機なんだ…僕のせいで…)」
「奴はきっと来るぞ。お前が招きいれた事態だ。最悪の状況になるかもしれん。自分のできることを考えておけ」
国木田の言葉に、敦は俯いた。
「(僕にできること…か…)」
バタン、と扉が閉まる音と共に、敦は小さくため息を吐いた。