第4章 黒の時代
『……うん。本当に大切なものだけ持ってきた。』
「へえ、それは興味深い。どれどれ――」
キャリーバッグを開けようとする太宰の腕を、なまえは慣れた手つきで振り払った。
『駄ー目。』
「えー、余計気になるのだけど。」
面白くなさそうに口を尖らせる太宰を無視して、なまえは蒸留酒を一気に流し込んだ。喉の奥が熱くなって、口中に何とも言えない独特な香りがツンと広がる。
―――矢っ張り、私にはまだ早いみたいだよ、織田作。
いつか、貴方のように。
これを美味しいと云える日がくればいいと思う。
そうしたらその時は、貴方が見ていた景色と同じ景色が、私にも見えるような気がするから。
「じゃあ、行こうか。」
『うん。』
チリンチリンと上品な鈴の音が、静かな夜に鳴り響く。外に出れば、雨はもう止んでいた。
雨上がりの夜道を歩き始めた二つの背中は、まるで何処かにある夜明けを待ち詫びているようだった。