第10章 たえまなく過去へ押し戻されながら
鼻を掠める鉄の匂い。命の鼓動が止まる音。赤く染まった手。黒く濁った水溜り・・・山の様に詰まれた無残な死体の頂上に立っているのは、真っ白の肌を赤く染めた一人の少女。
振り向いたその少女は、紛れも無い
・・・―――わ た し ?
『………ッ!!』
どうやら懐かしい夢を見て居たようだ。
目を覚ましてみれば其処には、薄暗い空間が広がっていた。独特な匂いが鼻を掠め、血塗られた壁は今や懐かしささえ感じる。
忘れるわけもない。四年前まで、しょっちゅう出入りしていた場所なのだから。
しかし、真逆自分が此処に繋がれることになるとは、あの時は想像もしていなかっただろう。壁からはジャラリと重い鎖が伸び、両手がしっかりと繋がれている。
「やあ。久しぶりだねえ、なまえちゃん。」
聞こえてきた懐かしい声に顔を上げてみれば其処で笑っているのは―――ポートマフィア首領・森鴎外。
『……お久しぶりです、首領』
「いやあ、嬉しいね。君からまたそう呼んでもらえるなんて」
『………』
首領は、昔と変わらない妖しげな笑みを浮かべている。
「相変わらず君は、見目麗しいほどに美しいね。太宰くんを始め、中也くんと芥川くんといううちの精鋭たちまでもが夢中になる理由がよくわかるよ。」
『…お褒めに預かり光栄ですわ、首領。私などには身に余るお言葉に御座います。』
「その謙虚なところも変わっていないねえ。実に素敵だ。」
『首領の許容範囲は十二歳までじゃなくって?私はもう今年で二十二ですよ』
「フフ、そういう嫌味なところは太宰君にそっくりだ。」
『其れはどうも。』
「さて…本題に入ろうか。」