第9章 うつくしき人は寂として石像の如く
「さっき云ったよ」
太宰の言葉に、中也は地面に落ちたジャケットを拾い上げ答えた。
「人虎がどうとかの話なら、芥川が仕切ってた。奴は二階の通信保管所に記録を残してる筈だ……なまえなら……今は特別拷問室にいる」
「あっそう。ま、予想はついてたけどね」
「あ”あ”!?なまえに会いに行くつもりなら無駄だぜ。今、特別拷問室には首領がいる。」
中也の言葉に、太宰はふ、と笑った。
「行かないよ。」
はっきりとそう云った太宰に、中也は眉を顰めた。
「あ?じゃあ何でなまえの居場所を聞いた。」
中也の問いに、太宰は少し間を置いてから答えた。
「如何するかは、なまえに決めさせてあげたいから。それだけだよ。」
太宰が態と捕まった理由―――もう一つは、それだった。
「……恰好つけやがって…何処までも気にいらねえ。用を済ませてとっとと消えろタコ!!」
「そりゃどうも。でも一つ訂正。今の私はなまえと心中が夢なので、君に切り殺されても毛ほども嬉しくない、悪いけど」
「あっそう…つーかなまえを巻き込むんじゃねえ。死ぬなら一人で死にやがれバカヤロウ!言っておくがな太宰…これで終ると思うなよ……二度目はねえぞ。」
「違う違う!なんか忘れてなーいー?」
「………!!」
「なーんーかーわーすーれてなーいかなあー?」
「ふぬうううう……っっ」
中也は一人悶えた挙句・・・
「に、二度目はなくってよ…!」
内股歩きのお嬢様口調で、云った。
「な…なくってよ……?……って笑うトコだろうがァァアアア!!」
中也の叫びが、地下牢に虚しく木霊したのであった。