第2章 『頑是ない歌』
「お待たせ」
「おぉ」
気付くと泰子も食べ終わっていた。
少しして、食後に頼んでおいた珈琲とアイスティーを店員が運んで来る。
中也の前に珈琲を。そして泰子の前にアイスティーを置こうとした瞬間──店員の手からグラスが滑り落ち、アイスティーが泰子へとかかった。
「もっ、申し訳ございません!」
店員が慌てて謝罪を入れる。
しかし中也はほんの僅かだがグラスが彼女の方へ引っ張られるように動いたのを見逃していなかった。
能力を使い態と自分へアイスティーを零させたのだ。
「あの、シャツでよろしければお貸し致しますので、事務所へお越し頂けますか?」
「有難う。連れも一緒でも?」
「はい、大丈夫です」
店員に案内され、二人は事務所へと通された。
店内とは違いとても簡素な造りで、テーブルとソファ、そして端にはデスクとパソコンがあった。
「こちらが着替えです。お召になられていたシャツはこちらの袋をお使い下さい」
「有難う。着替え終わったら呼ばせて貰うよ」
申し訳なさそうな表情をしたままの店員は、テーブルにタオルと袋を置いて一礼すると、事務所を出ていく。
「さて、と。中也このUSBを差し込んで」
中也はポイと放られたUSBメモリーを受け取ると椅子に座り、パソコンを起動させる。
渡されたUSBを差し込むと、作業にかかる残り時間が表示される。
「ちゃんと出来た?」
「あぁ。って手前!着替えてから来い!」
「中也顔が赤いよ」
横に来た泰子は着替えている途中で、借り物のシャツに袖を通しただけでまだ釦を留めていない状態だった。
ドギマギしている中也を気に留めることもなく、泰子はパソコンを操作していく。しかし中也は目の前の光景に動くに動けない状態だった。