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生い立ちの歌《文スト》

第7章 『春日狂想』





「泰子!!」



中也が重い鉄の扉を破壊すると、其処には泰子の姿が在った。
然しその姿は中也が汚濁状態の時のように、異能力が解放されている状態だった。
彼女の他には人はおらず、異能力が暴走化した事により避難した様だった。



「もしあれが中也の汚濁と同じ状態なら、時間がない...!」



泰子の全身は殆どが黒く染まっており、理性も完全に失われていた。
全身が完全に染まってしまえば、泰子は助からない。
然し部屋にあったであろう物が全てが飛び交っているこの状態では、迂闊に近付けもしない。



「おい太宰。俺が泰子の動きを止める。その隙に彼奴の異能力を無効にしろ。俺の能力と似ているなら手前の異能力で何とかなるだろ」

「嗚呼、やってみる他ない」



そう言うと中也は自らも汚濁状態になり、泰子へと向かっていった。
暫し一進一退の攻防が続くが、やがて泰子の方に一瞬の隙が出来た。
太宰はそれを見逃さず、中也と泰子の間に割って入ると二人に触れた。
中也と太宰の目論見通り泰子の異能力は無効化され、中也も汚濁状態が解除された。



「泰子...っ」



汚濁により著しく体力を奪われていた中也だったが、泰子の元に駆け寄ると体を揺さぶった。
酷く衰弱していて意識は無かったが、息はしている。



「中也、与謝野先生の所へ連れて行こう。近くまで来てくれるよう頼んでおいた」



病院へ行く時間すら今は惜しい。
中也は頷く他無かった。
来た時とは違い、既に屍となった者以外施設には残っていなかった。
泰子を背負いながら走る中也と、走りながら電話を掛ける太宰。



「先生、私です」

「嗚呼、すぐ近くまで来ているよ。さっさと連れておいで」

「有難う御座います」


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