第5章 『 汚れっちまった悲しみに』
泰子の中へ欲を吐き出した中也は、暫く彼女にのしかかりながら、呼吸を整えていた。
「中也重い」
「五月蝿ェ」
「どいて。煙草吸いたい」
中也は泰子の上から退くと、サイドテーブルに置かれていた煙草の箱から1本抜き取ってから放った。
受け取った泰子も箱から煙草を出して咥えると、中也が黙って火を差し出す。
「──ねぇ中也。此れは根拠の無い予感なんだけれど...」
そう前置きをした泰子。
普段からデータや理論に基づき行動することの多い彼女が此の様な事を言うのは珍しい。
「この件、私は無関係では無い気がする」
「どういう事だよ」
「解らない...けど、何となく、そんな予感がするの」
今まで見た事が無い様な不安気に顔を歪める泰子の表情に、中也は己が酔っている事も忘れ、ただ呆然とその横顔を眺めていた。