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生い立ちの歌《文スト》

第4章 『北の海』





「おかわり頂戴。同じの」

「はい」



泰子は行きつけの酒場で酒を煽っていた。
中也程弱くは無いが其れ程強くない事を自覚している為、ゆっくりとしたペースでグラスを空けている。
昼間という事もあり、店内には彼女の他に一人しか客は居なかった。
3杯程グラスを空けた時、泰子の携帯が振動した。
画面を確認すると、連携させている自らのパソコンに今朝の返事が届いたことを知らせるものだった。



「ご馳走様。お代置いておくわね」

「有難う御座いました」



素早く身支度を済ませ、テーブルに紙幣を置くと店員の声を背中に受けながら店を後にする。
ざわざわとした喧騒の中、ふと懐かしい声が泰子の耳に入ってきた。



「──っ!?」



ばっと後ろを振り返るが、その人物の姿はない。暫く道で立ち尽くす泰子だったが、ポケットで震え始めた携帯にハッとなり画面を確認すると、短く息を吐き携帯を耳に当てた。



「もしもし」

「手前さっさと帰って来い!」

「中也は過保護だなぁ」

「手前がフラフラしてるからだろうが!」

「はいはい。今朝の返事もあったし直ぐ帰るよ」

「尚更早く戻れ!」



中也の最後の言葉の途中で既に耳から電話を離していた泰子は、携帯を仕舞うともう一度後ろを振り返る。
勿論其処には街の人間しかいない。
左の首筋にそっと触れてからアジトへと足を進めた。



「ただいま」

「返事はなんだって?」

「取引は二日後、あの店でだよ」

「そうか──なぁ泰子。手前、何かあったか?」

「え?いや、何も無いよ」



怪訝そうな顔で中也が問い掛けるが、泰子は笑いながら否定した。
普段通りの筈が僅かに表情に出ていたのだろうか、彼女は中也の勘に驚きながら椅子に腰掛けた。



「取引が二日後なら明日は一日空いてるねぇ」

「仕事をしろ」

「そうだ中也、買い物に付き合ってよ」

「手前話聞いてたか?」

「うん」



悪びれる様子もなく頷く泰子に、中也は青筋を立てるが何を言ったところで無駄な事はよく理解している為、明日自由に過ごせるよう普段より多めに仕事を終わらせようと机に向かった。


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