第12章 足枷
「…ご、ごめん!」
それだけ一言言って、ソリャは回れ右をした。本当はもっと言いたいことがあった。
拾ってくれてありがとう、育ててくれてありがとう、迷惑をかけてごめんなさい、こんな化け物を育てさせてごめんなさい、みんなを傷つけてごめんなさい、本当は恐かったんだ、俺のこと嫌い?…
ソリャの伝えたい言葉は、頭の中で塞き止められぬほどに溢れたが、その思いを全部詰めたように、声になったのはたった一言になってしまった。
心の臓はまだ、早鐘を打つかのように激しく動いている。
(こんなに傷ついてしまうなら、もう誰も信じちゃいけない…。どうせ俺は化け物で、誰も心から好いてはくれねぇんだ。誰かと関わるのはやめよう…。)
ソリャは窓から飛び下りる。そして闇夜に紛れて消えていった…。
(もう誰とも関わらないと決めていたのにな…)
ソリャは隣を歩く男を見ながらそう考えていた。お互い黙ったままだったが、男が自分のことを憎んでいたり、恐れていたりしないことはわかった。
あれほど人を拒絶しようと思っていたのに、こうして見知らぬ男と歩いているので、ソリャは妙な心地だった。夢の中にいるような不安定で、自分の意思が反映されていない世界。自分はこの状況を俯瞰しているもののような気がした。
「…先程は助けてくれたこと、感謝する。」
そう男は沈黙を破った。ソリャは思わずびくりと肩を揺らす。自分が第三者の立場にいるような感覚が消え、男の目を見る。
「いや、あれは…。ただ無我夢中でしたことだ。礼を言われるようなもんじゃねぇよ。」
ソリャはそう言って合わせていた視線をすぐに地面に向ける。
(人と目を合わせて話すなんていつぶりだろう。)
人とまともに喋っていなかったソリャには、どう人と話せばいいのか全くわからなかった。視線をどれぐらい合わせていいのかも戸惑う。
「それでも助けてくれたことには変わらない。謙遜することではない。」
男はそう言って笑った。どうやらソリャの戸惑いながら話す様子を悪くは思っていないようだった。
「ああ…。」
そこで会話は途切れる。森の茂みに入り、ここで二人を待とうと言った男に続いてソリャは地面に腰を下ろした。