第12章 足枷
傷つきたくなかった。
もう痛みなど感じたくないと思った。
だから、もう自分は独りなのだと思うことで耐えてきた。
ソリャは怯えと寒さと空腹に苛まれていた。目を閉じると、昼間の惨劇を思い出す。
(何てことをしてしまったんだろう…)
あのとき、庭に出ていなければ。年上の連中と上手くやっておけば。ちび達を庇っておかなければ。後から後から後悔が溢れてきた。
深い傷を負った人の背中、芝生に飛び散る血飛沫。そして己の手が真っ赤に染まっている…。頭の中には、昼間に聴いた断末魔の数々が巡っている。
(俺はもう、あの家に帰れない…。)
ずりずりと重い脚を動かしながら、日も沈んだ暗い町中を歩く。どこからか誰かの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。きっと家族で温かく穏やかな時間を過ごしているのだろう。
(もう、俺はあの中には入れない…)
自分を慕ってくれたちび達や、異形の自分を受け入れてくれた院長。少々のいざこざはあったものの、離れがたく、ソリャなりの温かな家庭だった。ソリャにとっての家を、家族を一瞬にして失ったことで、ソリャは心の拠り所を失い、これから先どう生きていけばよいのか全く見通せなかった。いや、これから先のことを考える余裕もなかった。
(俺は化け物だ…。人を傷つけて、恐がらせて、憎まれる存在なんだ…)
やっと十の年月を生きてきたソリャに突き付けられた現実は、受け止めきれるものではなかった。ずっと心の奥底で感じてはいたものの、見ないふりを続けていたのだ。
(俺を生んだ親にさえ怖がられて捨てられて…。俺はどこにも受け入れてもらえはしねぇんだ…。)
物心ついた頃から、母親がいないこと、そしてその理由は自分のこの姿のせいだとわかっていた。孤児院の外では、我が子を優しい眼差しで見守る母親の姿をよく目にした。そんな無償の愛を注いでくれるはずだった親にさえ拒否された自分は、誰に愛してもらえるのだろう?
ソリャは幼い頃から感じ続けてきた孤独感と劣等感から、新しい場所に行くなどということは、恐怖でとてもできなかった。