第8章 Episode 7
気付けば、体が勝手に飛び出していた。飛んで来た物体を蹴り上げると、カン、と金属音がして会場の袖へ飛んでいった。
よくよく見れば、それは赤のスプレー缶。
巷の落書きに使われていたものだ。
紡ちゃんはナギが庇ってくれたため、どちらにも怪我はない。
「サクラっ...!大丈夫ですか!?」
「平気。パンツスーツでよかったよ」
「Oh...よかったです...。会場の後ろに怪しい人物がいます...!衛兵!ただちにあの者を捕らえよ!」
衛兵という単語に警備員が少し困惑していたが、警備員より早くIDOLiSH7のメンバーがその人物を追いかけていた。
私は紡ちゃんを社長とナギに託し、メンバーを追いかける。
あの子達のことだ。紡ちゃんが狙われた事に腹を立てて、殴りにでも行ったのだろう。
そんなことをされてはまずい。全力で走っていくと、メンバーに追いついた。
「っ、ゼロ...!?」
IDOLiSH7のメンバーに追いついたかと思えば、目の前にはゼロの衣装を身に纏い、ゼロの曲を歌い、踊る人物。
完璧に見えるそれに街の人々はゼロが帰ってきたと喜びの声をあげている。
「違う。あれは、ゼロじゃない!」
三月が彼を見つめながら力強く言い放った。
私たちはしばらく見とれていたが、気付けば人に紛れゼロの姿は消えていた。
その日を境に、ゼロ復活のニュースは日本中に広がり、ゼロアリーナのこけら落とし最終日にゼロが出演するのではないかとの噂も出回っていた。
小鳥遊事務所にも未だに桜春樹の歌を歌うなとのクレームもあり、更にRe:valeの元には脅迫状も届いた。