第12章 *手をかけた扉*
(っ………!)
必死に、自分が伸ばせる限り手を伸ばして球体へと走る。
気を抜けば見失ってしまいそうな小さな球体をこの時は見逃すことはなかった。
俺が追いかけているのは爆豪か、常闇か。
なんとなく、爆豪のような気がした。
隣でも障子が手を伸ばしてあと一つの球体へと手を伸ばす。
あれを掴めば…俺達の勝ちなんだ。
何としてでも掴み取らなければ。
世界がスローモーションに見えた。
それは俺がもっと早く動きたいと願ったからだろう。
ゆらりゆらりと浮遊する目標まであと30㎝。
ほんの少しの距離。仮面野郎はまだ体制を立て直していない。
今なら行ける。取れる。そう思った。
そして、開いた手のひらを閉じてビー玉を手中に収めた。
はずだった。
俺が掴んだのは、森の周りを覆っている青い炎から出る煙だけ。
完全に忘れていたその存在。閉じた拳にコツン、と当たったあと一つの拳。
ビー玉を持ったツギハギの手が俺の直ぐそこを横切った。
「哀しいなぁ、轟焦凍」
耳元で聞こえたその声に耳は反応すれども体はそのまま横を通り過ぎていく。
スローモーションの世界が終わりを遂げて俺に現実を突きつける。
取り返せなかった。という現実を。
———————ズサズサズサッ!
起き上がって目線を上げた時には、元に戻った二人の姿。
障子が無事に掴み取ったのは常闇。
俺が取り返せず、ヴィランの元でワープゲートに吸い込まれていくのは
爆豪だった。
俺の体は動かなかった。
ただ、その光景を眺めているだけだった。
緑谷が爆豪の元へと走ったが、その体はどこに触れることも無く、地面へと叩きつけられた。
爆豪はワープゲートへと吸い込まれてどこかに消えた。
だけど俺は何も…出来なかった。
吸い込まれる直前に目が合ったんだ。確かに合っていた。
来るなと言っているような、行きたくないと言っているような瞳が暫く頭から離れなかった。
この時俺は手を掛けていた不幸への扉を開いてしまった。
上鳴電気がユイと再会するまであと1分。