第12章 *手をかけた扉*
§ 轟side §
未だかつてピエロにこれまでの恐怖心を抱いた事があっただろうか。
ピエロと言えばサーカスで玉乗りをしたりジャグリングをしたりして観客を楽しませる奴の事だ。
顔が怖いと子供に泣かれることもあるが、今俺が感じている"怖い"はそんなに優しいものでは無い。
お面の中から見える感情は敵意でも殺意でも無い。
何を考えているのかさっぱり分からないが、俺達の味方で無いことは確かだ。
「こいつはヒーロー側にいるべき人材じゃあねえ」
とピエロは言いながらビー玉の様なものを弄る。
確かに爆豪は傍から見ればヒーロー志望とは思えないだろう。男女構わず喚き散らし、人の言う事なんて聞こうともしない。
だがそれでも雄英に来たということはヒーローを目指し、それなりの実力も持っていると言う事だ。
それを簡単にヒーロー側の人間ではないなどと言うな。
(チッ……仕方ねぇ!)
ヴィランとの交戦はなるべく避けたかったがこのまま見過ごすことも出来ない。
氷壁を出して攻撃しようとするものの、距離も遠い。
これではただの障害物、ヴィランはそれを華麗に飛び越えた。
「爆豪だけじゃない!常闇もいないぞ!」
その声に慌てて周りを見渡すが、確かな常闇もいない。
次にヴィランを見た時、指の間に挟まるビー玉は2つに増えていた。
(常闇までアイツに……!)
再び氷壁を出すが当たらない。
2人を誰にも気付かれずに攫えるくらいの個性を持っているのならそのまま立ち去ればいいだけの話。
それをアイツはわざと話しかけてきた。
まさにサーカスで踊るピエロのように、華麗に氷壁を交わしたヴィランはこの場を楽しんでいるようにも見える。
「これにて幕引き!」
遠くてよく聞こえなかったか確かにそう言った。
そして、サーカスは終わりだと告げるようにヴィランは木と木を飛び越えて闇に紛れようとする。
(逃がさねぇ!)
いつの間にかそこら中に充満していたガスも晴れている。
背負っていた奴を麗日に預け、俺達は全速力で森の中を駆け抜けた。