第9章 *Cultivate love*
オムライスと言えば、ドラマや漫画などでカップルや新婚夫婦がケチャップでハートを描いたりするのをよく見る。
そうでなくとも何かしら文字や記号を書く人も多いだろう。
でも私は生憎書くタイプの人間では無い。
ましてやドラマなんかでは無いこの世界でケチャップでI♡焦凍と書けるほどの人間でもない。
(それに多分書いても伝わらない)
実際前にいる焦凍はジグザグに塗られた赤に目もくれず、涼しい顔でオムライスを食べている。
「美味い」
「それは良かった」
焦凍は本当に気に入ったみたいで直ぐに完食してしまった。
*。°○.:+**。°○.:+**。°○.:+**。°○.:+**。°○.:+*
「ねむ……」
「もう寝るか?」
「まだ寝ない……」
夕食後、二人でテレビを見ながら談笑をしていると、急に眠気が襲ってくる。
時計の針は9時を指している。いつもならこんな時間には寝ないのだが、今日はいつもより起きるのが早かった。
聞くまでもなく今日を楽しみにしていた私は、目覚ましよりも随分早く目が覚めてしまったのだ。
「お風呂、入らないと…」
「それもそうだな」
お風呂へ向かおうと立ち上がろうとした時、視界がぐらりと揺れて、私は咄嗟に近くにあったものにしがみついた。
「焦凍?」
しがみついたのは焦凍の腕。
視界が揺れたのは焦凍に横抱きにされたからだ。
2人きりの空間で誰かに見られる心配が無いから、無理に降りようとはせずそのまま焦凍を見上げる。
「風呂の場所分かんねぇだろ。連れて行く」
「あ…ごめん。ありがとう」
場所を教えるだけなら別に横抱きにする必要は無い。
なんなら口で伝えてもいいくらい。
だけど私はこの時淡い期待を抱いた。
2人だけで過ごしたら当然健全に終わるとは考えられない。ましてや初夜も済ませてしまっているのだから尚更だ。
それでも拒絶しなかったのは私もそうしたいという心があったから。
焦凍に抱き上げられたままバスルームへと向かった。