第9章 *Cultivate love*
§ ユイside §
「あ〜……どうしよう…もう時間だ…」
生きてきた中でこんなに緊張した日があっただろうか。
もう何度も何度も自分の服装を見返してはこれでいいのかと悩み、大きな深呼吸を繰り返している。
焦凍が迎えに来るのは夕方だと言うのに、朝からずっと心の準備を繰り返している。
「大丈夫ですよ、ユイ様。可愛いですから」
「スウさん……」
そう言ってスウさんは私を安心させるような笑顔を向けてくれる。
実は昨日の夜、どうしてもソワソワして落ち着かなかった私は焦凍の事をメニーさんとスウさんに相談した。
2人は私に恋人が出来た事を誰よりも喜んでくれて、今日の洋服も一緒に選んでくれた。
ピーンポーン────…………
突然鳴り響くインターホンの音。
そもそもインターホンの音に予兆なんて無いのだが、この音に私の心臓がドクドクと波打つ。
「いってらっしゃいませ、ユイ様」
「帰ったらお話聞かせてくださいね」
「はい…」
2人に背中を押される形で玄関へと向かい、ドアを開ける。
するとそこにはいつもの見慣れた制服姿ではなく、私服姿の焦凍が立っていた。
焦凍はシンプルなシャツに半袖のジャケットを着ている。
考えてみれば焦凍は柄物というよりもシンプルという感じがするから焦凍らしいと言えば焦凍らしい。
考えてみれば今までのデートは全て学校帰りだった。
こうやって休日に出掛けるのは今日が初めてだ。
「悪いな。今日クラスの奴らと出掛けたかったんじゃねぇか?」
「焦凍との約束の方が先だったし私も楽しみにしてたから全然大丈夫だよ。皆とはまた今度出掛けるから」
「そうか」
私の手を取り歩き出す焦凍の横顔が何だか嬉しそうに見えて、私の顔も自然に綻ぶ。
握られた手をキュッと握り返した時には緊張はほぼ無くなっていた。