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御伽アンダンテ【HQ】【裏】

第12章 灯火に陽炎


ぶれてしまう自分にも腹が立つ。
隣に座るのに膝が震える。
情けなくて、更に泣きそうになる。
「わぁ…」
最後の出し物は、有志によるゴスペルだと書いてあったのを思い出す。
5、6人の男女が並び、美しい歌声を響かせる。
マイクは遠いのに、その歌声は素人でもわかるくらい芯が通っていて上手い。
昔に大ヒットした歌だ、という僅かな知識だが、その歌は歌詞も主旋律も恐らくほとんどの国民なら知っているだろう。
夜空に上がる星を歌った歌詞は切なく、夏に二人で見に行った空を思い出した。
「この歌…、あの時聴いてたら、干からびるくらい、泣いちゃったな……」
同じ事を考えていたが静かに呟いた。

「……ああ…」
声が震えてしまったのをが気付いたのか、すぐにこちらを見て、またすぐに視線を窓に戻した。
気付かれてしまった上に、気まで遣わせてしまった。
左手に小さな左手が重なる。
暗がりで僅かに光が反射する。
「ずっと、上見てたら、疲れちゃうけど、こうしたら、下を見てても、星が見れるね…」
くすくすと柔らかい声が心地いい。
「たまに、休みたくなったら、こうしようね…」
優しく母親が子に話すような口調だった。
息が詰まって、返事すら出来なかった。
抑えようとすればするほど、苦しくなる。
足元に輝いた星は、あとどのくらいだろうか。
最後の歌詞が、今の俺達にゆっくりと重なる。
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