第9章 白露に吹きし風
「大丈夫か?」
がやがて目を覚ます。
あたりは静まり、虫の声しか聞こえなかった。
「……うん」
身なりを整えると、柔らかく笑った。
「牛島くん、最近…その、来なかったから……。
嫌われちゃったかと、思ってたの…」
「そんなわけないだろう」
暗くてもわかる赤くなった顔。
額に軽い口づけを落とすと、恥ずかしそうにした。
「が、あまりにも儚いから」
「……ちゃんと、今はいるよ」
「今は、じゃない。ずっとだ」
語気を強めて言う。
怒りというより悲しみが強い。
「………そう…」
「、さっきも言った。
来年も、ここに来る」
「………」
「返事をしろ」
「…っ」
「……」
「約束、守れなかったら、ごめんね……」
「今日の約束も守れた」
「……そう、だね…」
彼女の小さい手を取り、子供のように小指を結ぶ。
「約束だ」
「……うん…」
湿った草木の香りの中、優しい甘い香りが入り交じる。
風にまたさらわれてしまわないように、壊さないように、慎重に抱き締めた。