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【短編集】My Favorite【R18】

第2章 生贄の乙女#


沙里はまだ14歳だ。
いくら幼女ではなくなっても、睫毛に縁取られた瞳は無垢な光を宿し、横顔はまだあどけない子どもに見える。

彼女は今、両腕を麻縄で拘束され、屈強な男に挟まれて森を歩いていた。

陽が沈んでまだ間もないのに、生い茂る木々に挟まれた細道は暗く、足場も時折ぬかるんでいて不安定だ。
頼りとなる松明は両脇の男が持っていたが、彼らは自分の足元を照らすのに必死で沙里のことなど思考の圏外。

身に着けているのは、薄い布地の白いワンピースのみ…そんな沙里が石を踏んで足から血を流そうと、彼らにとっては全くの他人事だ。

(うぅ…帰りたいよ…嫌だ、怖いよ……)

得体の知れない恐怖が肩にのしかかり、彼女の脳内を怖いの二文字で埋め尽くす。
涙腺は本当に崩壊してしまったのか、涙の一粒も頬を伝うことは無かった。

森独特の、鼻腔を嫌に刺す湿気った臭いが弱くなった頃、前方10メートルぐらい先だろうか…木々の無い一面芝生の拓けた場所が見えた。

中央には木造の広い屋敷が建っており、目の前にはささやかながらも清流の境界線が引かれてある。
今まで見えもしなかった満月が背景に加わり、沙里は不覚にも美しいと感じてしまった。

不思議と気持ちが落ち着き、恐怖が和らぐ。

「ここで俺達の役目は終わりだ。」
「振り返らずに行け。」

手の拘束を解かれ、言われるがまま小川を跨いだ沙里は―――ひとりでに、彼女を迎え入れるように開いた大きな扉をくぐった。
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