第1章 真島という男
「あの…、回りのお客様に迷惑かかるんで……」
回りの客の冷たい視線に耐え兼ねた雅美が申し訳なさそうに真島へ伝えると、雅美をじっと見つめ口に含んだナポリタンを喉を鳴らして飲み干した。
「雅美ちゃんが言うならしゃないかぁ……」
真島は手に持っていたフォークを携帯に持ち替えて、漸く着信を渋々取った。
その瞬間――!
ただ今真島は睡眠中なので電話に出れません」
その理不尽過ぎる言い訳に雅美と桐生は呆然としながら、真島は電話を切り何食わぬ顔で電源を落とした。
「さぁて、邪魔物はおらんくなったし食べる事に集中するかっ」
「電話いいんですか……?」
「かまへんかまへん!どうせしょうもない事やろうし。携帯なんてあって無いようなもんや~」
桐生の問いかけにアハハと笑いながら答えた真島は、再びフォークを手に取ってナポリタンを食べ始める。
かなり横暴な真島の様子に瞬きすら忘れて凝視していた雅美に、桐生が迷惑かけて悪かったなと詫びを入れた。
「あっ、大丈夫ですから」
その声に我に返った雅美は笑って桐生に返事する。
そして再び真島に目線を戻した。
――この人、本当にヤクザなの?
まるで子供がそのままでかくなったような感じで、見た目と中身がどうしても一致しない。
もちろん自分の知らない真島の顔はたくさんあるわけで、
ここでいつも絡んでくるその姿しか見たことない。
この人がどんな生活を送って、
どんな生き方をしてるかなんて全く想像した事ないのだから。
「あ~食った食った!ごっちそうさま」
皿の上にてんこ盛りにあったナポリタンが綺麗に、
そしてあっという間に無くなっている。
満腹でご機嫌になった真島は、すぐ近くにあった箱から爪楊枝を一本取って歯先に差し込んだ。
「食べるの早いですね…、相変わらず」
その食べる速さは何度も目撃している雅美。
いや、食べるというより飲み込んでいるのほうが性にあってるかもしれない。
「だって雅美ちゃんがおんのに待たせたらあかんやんか。今しか話出来へんからなぁ」
「って、私仕事中なんですけど……?」
苦笑いした雅美と頭を抱えた桐生をよそに、真島は再びマシンガントークで口説きにかかっていた。