第2章 ふたりの距離
それは雅美の微妙な声色の違いが物語っていたからだった。
「今日は何の用や、手土産まで持ってきよって」
テーブルには2人の中心に白いあの箱がポツンと置かれている。
それは見るからにクリスマスケーキの箱だろう。
上部の取っ手部分には、ミニロウソクが5本袋に入ってセロハンテープで留められていた。
「真島さんの具合どうなったかなと思って。お店にも来なくなったから……」
あの夜以来、アルプスには顔を出していなかった真島。
だが、通りを歩く人波に紛れてよく雅美を眺めていた。
いつもと変わらない様子で仕事をこなす姿に、何だか胸が裂ける思いがした。
きっと自分がこんなに悩んでいる事など、彼女は知らないだろう。
こんな思いを抱えたまま雅美とどんな顔をして会えばいいのか。
会ったとしても、何を話したらいいかわからない。
何もなかったように、普段通りに接すればいいのか。
本当に話したい事をひたすら隠し、雅美に会って話しても嬉しくとも何ともない。
だから店には行けなかった。
自分の中でもう少し気持ちの余裕が出来るまで待つしかなかったのだ。
「俺はもう大丈夫や。風邪なんて簡単に治るわ、何たって俺の体は鋼のように強いからな」
真島の冗談に雅美の口元が緩む。
そして暫く俯いて黙り込むと雅美はおもむろに口を開けた。
「体調の事も気になってたんですけど、本当は……真島さんに話したい事があったんです」
「話したい事?」
雅美の意外な言葉に、
真島は流し目で雅美を見つめた。