第8章 成長
「先輩…何かあったんですか?」
「ん…ちょっとね」
心配そうに声を掛けてくる半田くんにそう返す。
本当はさっきの事を愚痴りたかったが、今はやめておいた。
「よし、充電完了」
「……、」
そう言って彼から離れる。
そして一緒に部署へ戻ろうとした時、彼が遠慮がちに私の腕を掴んできた。
「…半田くん?」
「あ、あのっ……今日…先輩の家に行ってもいいですか?」
「…え……?」
意外な申し出。
今日は週の真ん中の水曜だったが、私も何となく彼に癒してもらいたくてOKを出した。
「ありがとうございます。俺…楽しみにしてますね」
「……、」
嬉しそうに笑う彼を見て胸がキュンとする。
(何だろう、この気持ち…)
さっきの気持ち悪いオヤジを見た後だから…?
その後仕事に戻った私は、柄にもなく今夜の事を考えてドキドキするのだった…
「今日は俺…先輩にマッサージしたいです」
仕事を終えて家に着くなり、そう申し出てくる半田くん。
断る理由の無い私はソファーに座り、彼の申し出を有り難く受ける。
(あ…、気持ちイイ……)
後ろから両肩を揉んでくる彼の手つきが絶妙で、思わず溜め息を漏らしてしまった。
以前は時々整体に行っていたが、最近は全く行けていない。
「先輩、結構凝ってますね」
「うん…デスクワークが多いからどうしてもね」
「…あ…あの……」
「んー?」
何だか言い淀んでいる彼。
「どうしたの?」と先を促せば、怖ず怖ずとその口を開く。
「今日の商談で…何があったんですか…?」
「…え……?」
「先輩がその…、俺に甘えてくれるなんて初めてだった気がして…」
「………」
"甘える"というのは、昼間会議室でつい彼を抱き締めてしまった事を指しているのだろう。
今日私と過ごしたいと言ってくれたのは、彼なりの気遣いだったのかもしれない。
「取引先の専務からね…愛人にならないかって言われて」
「えっ!?」
「それで体触られたり…スカートの中にまで手を突っ込まれた時は流石に焦ったわ」
「なっ…」
余程衝撃的だったのか、手を止めた半田くんが私の隣に移動してくる。
そしてずいっと顔を近付けてきた。
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