第7章 卒業
「あの…織田先輩」
「…?」
デスクの上を整理し休憩に出ようと立ち上がった時、半田くんに声を掛けられた。
「半田くん…何?」
「先輩に話があって……少しだけ俺に付き合ってもらえませんか?」
「………」
何だか浮かない表情の彼…話とは一体何だろう?
2人きりで話したいという彼に連れられ、私たちはこの時間使用されていない会議室へ移動した。
「こ、今夜の事なんですけど…」
中に入るなりそう切り出してくる彼。
ちょうど良かった…今夜は一緒に過ごせないと今のうちに言っておかなければ。
「ああ、ごめん…今日はちょっと予定があって」
「……、合コン…ですか?」
「…え……」
ひょっとして、さっきの彩香とのやり取りを聞いていたのだろうか…
何故だか急に罪悪感のようなものを覚える。
半田くんは彼氏じゃない。
今日だって別に約束をしていた訳でもない。
それなのにこの後ろめたい気持ちは何だろう…
「…盗み聞きなんて悪趣味」
「……、」
「でも…聞いてたなら話が早いわ。そういう事だから今日は…」
一緒に過ごせない…と言い終わる前に、突然彼に両手をぎゅっと握られた。
その顔は何かに追い詰められたようにツラそうで…
「…い…行かないで下さい……」
「…え……?」
「俺にこんな事言う権利は無いって解ってますけど…っ……、合コンなんかに…行ってほしくないです…」
「…半田くん……」
今にも泣いてしまいそうな顔でそう訴えてくる彼。
不覚にもきゅんと胸が疼いてしまった。
「先輩は…俺の飼い主なんですよね?」
「……、」
「だ、だったら…最後まで責任持って下さい…。ペットを飼うって決めたら…最後まで面倒を見るのが飼い主の義務でしょう?」
「っ…」
言っている事はメチャクチャだったが、初めて見る彼のその気迫に何も言い返せない。
私が彼をここまで追い詰めてしまったのだ…
「お願いします……俺、何でもしますから…っ……、だから…今日は俺と一緒にいて下さい…」
「…ぁっ…、」
今度はぎゅうっときつく抱き締められる。
ドクンドクンとうるさいくらい鳴っている彼の心臓…
あの気弱な彼がここまで自分の気持ちを伝えてくるなんて、きっと並々ならぬ覚悟があっての事だろう。
私はそっとその体を抱き締め返した。
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