第6章 誘惑
「じゃあ…最後までシてみる?」
「っ…」
俺の唇を指でなぞりながらそう囁いてくる先輩。
(もしこれが夢なら醒めないでほしい…)
今俺は初めてパンダの祟りに感謝している。
だってあの日…俺がパンダになるところを先輩に見られなければ、俺たちはこんな関係になっていなかったのだから…
俺の唇をなぞっていた先輩の手を取りぎゅっと握り締める。
答えなんて決まりきっていた。
「はい……先輩と最後までシたいです」
「…半田くん……」
俺の言葉を聞いて一瞬目を伏せた彼女。
その顔がどこか淋しそうに見えたのは俺の気のせいだろうか…?
「解った……ちょっと待ってて。今ゴム持ってくるから」
そう言って一旦俺から離れた彼女は、ベッド脇にあった小さめのキャビネットの引き出しを探る。
恋人がいるいないに関わらず、彼女は常に避妊具なんてものを持っているのだろうか…?
それとも俺とこうなる事を予測して…?
もし後者だったら嬉しい…
そんな事を考えているうちに彼女が俺の元へ戻ってくる。
さっきからバクバクと破裂しそうなくらい大きな音を立てている心臓…
(ついにこの時が…)
そう思った瞬間、彼女の口から信じられない言葉を聞かされた。
「あの……半田くん」
「は、はい…」
「これだけ盛り上げといてすっごく言いにくいんだけど…」
「…?」
「ごめん……ゴム無かった」
テヘッとでも語尾につきそうなくらい軽い調子でそう言う彼女。
俺の気も知らず、「買っておいたと思ったんだけどなぁ」とぶつくさ言っている。
(こ、ここまで来てお預けとか…)
真っ暗になる視界…そんな俺の肩を彼女がポンと叩いてきた。
「もぅ…そんなこの世の終わりみたいな顔しないの」
「………」
「また今度……ね?」
「……、」
今度っていつですか?とは流石に聞けなかったが、今の俺はその言葉に期待する事しか出来なくて…
「…ちゃーんとイイ子にしてたらご褒美あげる」
「っ…、先輩……」
浅はかな俺は、そんな彼女の本心にも気付かず胸を高鳴らせるのだった…
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