第2章 秘密
別に私だって彼氏が欲しくない訳じゃない。
でも今は仕事で手一杯だし、その上後輩の教育係まで任されて…
(仕事も恋愛も両立出来る程、私は器用じゃないから…)
「…あれ?」
仕事が終わった後スマホを確認すると、1件留守電が入っていた……実家の母からだ。
何か急用だろうかと心配になり、慌てて再生してみる。
『もしもし、杏奈?あんた今度はいつ帰ってくるの?仕事もいいけど、そろそろ結婚の事も考えなさいよ?今度あんたにぴったりのお見合い相手探しておくから…』
その後も母の話はまだ続いていたが、私は途中でメッセージを切った。
(もぅ…急用かと思ったら……)
実家に帰る度、話題に上る結婚話。
そろそろ私も適齢期だという意識はあるが、まだ結婚なんて考えられない(そもそも相手がいないし)。
早く結婚してほしいという母の気持ちも解らない訳じゃないが、今はまだそっとしておいてほしい。
(ハァ…もう何もかも面倒臭い……)
1ヶ月くらい仕事休んで、誰もいない所で何も考えずのんびりしたいなぁ…
そう現実逃避している時だった…
(…あれ?)
会社を出てすぐの所に、半田くんの姿があった。
彼はきょろきょろと辺りを見回した後、足早にビルの裏手の方へ向かっていく。
(あっちは今工事中で、立ち入り禁止だったはず…)
半年後には新しいビルが建つとかで、昼間は工事を行っているのだ。
こんな時間にそんな場所へ一体何の用だろう…?
私は好奇心に逆らえず、彼の後を尾行する事にした。
(あれ…見失った……?)
すぐに半田くんの後を追ったつもりだったが、彼の姿は見当たらない。
その代わり、暗闇でも目に付く白と黒の大きな塊…
(なんでこんな所にパンダの置物…?)
それは誰がどう見てもパンダの背中だった。
ふわふわのそれは、置物というにはかなりリアルに出来ていて…
「……って…、え?」
何故かプルプルと震えているその背中。
何だかとても苦しそうにも見える。
(えっ…ウソ、本物!?だったら電話しなきゃ…!)
こんな所にパンダがいるなんて普通じゃない!
ひょっとして動物園から逃げ出してきたのかも…!
でも連絡するってどこに…?
最早私はパニックに陥っていた。
とりあえずバッグからスマホを取り出す。
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