第8章 四月莫迦を君と 其の三
『代わりに仕事をして下さった上に送って下さり有難う御座いました。』
「あの後何か有った方が後味が悪いからな。気にするな。」
『ふふっ、国木田さん優しいですね。好きです。』
一日振りに聞いた彼女の一言に顔が火照るのが分かる。
暗がりで相手に見えていないのが幸いだ。
「……揶揄うのは止めたんじゃなかったのか?」
『揶揄ってませんよ、本気です。』
「その割には昨日は云わなかったが?」
『四月莫迦って知りません?』
「何だ、其れは。」
『昨日、四月一日は嘘を付いても怒られない日なんですよ。其れを四月莫迦と云うんです。』
「ほぉ、初めて聞いたな。」
『四月莫迦の日に好きだと云ってしまうと其れが嘘になってしまうでしょ?だから云うの我慢してたんです。恐らく其れを見越して乱歩さんは外に連れ出してくれたんだと思います。国木田さんとなるべく話さずに済むように。…まぁ、予想外に長引きましたが。』
「そうだったのか……。」
彼女が告げた意外な事実に暫し放心状態となり考え込む。
其れを見兼ねてか彼女は続け様に云う。
『何時も通り返事は要りません。ただ、私が本気なのだということだけ分かって貰えれば充分です。』
「其の必要は無い。」
『え?』
「俺も御前の事が好きだ。」
『……もう日付変わっちゃいましたから四月莫迦は終わりですよ?』
「そんな事は知っている。俺は愛理の事が好きだ。」
『…国木田さんっ!!』
眼を潤ませながら抱き着いてくる愛理を抱き返すと更に強く抱き返される。
其の夜は何時になく幸せな気持ちであった。
-次の日。
『くーにきーださーん!好きです!』
「いや、最早お早うの挨拶無くなってる…」
「嗚呼、愛理か。…俺も好きだ。」
最後の一言を耳元で囁いてやれば顔を真っ赤にし、へなへなと床に座り込む。
「ん?如何した?俺は挨拶を返しただけだが?」
『ゔっ、意地悪!!でも好き!!』
朝の挨拶がますます騒がしくなりました。by敦
END