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在りし日の歌【文スト】【短編集】

第5章 睡蓮




「ちゃんと戻って来ンだろうなァ?」

『太宰さんが私の呼び出しに応じなかった事は無いので大丈夫かと思いますよ。』

「……それ本当か?」


何時も何時も何の前触れも無く呼び出される側。
此方が呼び出しても駆け付ける事は愚か電話すら繋がらない事も有る中也にとっては信じ難い話だった。


『?本当ですけど。』

「…彼奴いつか絶対死なす。」


其れから黙々と作業する事数十分、コンコンと扉を叩敲(ノック)する音がしたと同時に扉が開いた。


「手前ェ、返事する前に扉開けてンじゃねェーよ!ってかそもそも仕事を押し付けてンじゃねェ!!」

「いやぁ、此の所身体を使ってばかりだったから頭を使いたくなったかなと思ってね。」

「今も手ェ使ってンだよ!!」


わなわなと怒りに震えそうな、いや、震えている中也を尻目に愛理は予め分けてあった書類を机に置いた。


『太宰さんの分は此方に有りますからどうぞ。部屋まで運びますか?』

「んー、愛理も私の部屋で作業するかい?」

『私は中也さんの処でしますけど。』

「本当に君はツれないねぇ。本当は物凄く気が勧まないのだけれど仕方なく此処でやる事にするよ。」

「勧まないなら帰れよ!!」

「おや、帰って佳いのかい?」

「そう云う意味じゃねェ!!自分の部屋でやれって意味だよ、タコ!!」

『中也さん、良い具合に遊ばれてますよ。』

「偶には仔犬にも構ってあげないと拗ねてしまうからね。」

「遠回しに小せェって云うな!!」

『私も構ってなんて一言も云ってません。』

「ふふっ、私が構いたくて仕方無いのだよ。如何だい?そろそろ私の元へ来てはくれないのかね?」

『御断りします。』


至近距離まで近付き愛理の頬を撫でるようにして触ると暫く見つめ合うが良い返事は貰えなかった。


「身体は許しても心は許してくれない、か。」

「手前っそれ如何云う意味だよ!」

「如何って其の儘の意味だけど?」


色んな意味で意気消沈した中也は手を止めると机の上に突っ伏せてしまった。
心配した愛理だったが今はそっとしておき給え、と太宰に云われ黙々と作業を続けた。


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