第13章 7月 Ⅲ
水の入った洗面器とタオル、コールドスプレーとテーピングテープ。
慣れた様子で青峰の腕の汚れを綺麗に拭き取り、コールドスプレーで冷やす。
その冷たさに思わず腕を引っ込めようとしたが、アリスに『ダメ!』と睨まれる。
冷やされる肘と腕を支えてくれているアリスの触れる箇所の温度差が大きい。
自分のそれに比べてたら小さくて温かい彼女の手。
『はい、応急処置はこれで。』
「…悪い。」
『そう思うなら明日ちゃんと病院にっ!?』
言い終わる前に天地がひっくり返る。
青峰越しに見える天井、蛍光灯。
ソファーに押し倒された。
「ちげーよ。」
押し倒すから「悪い」だったのか、とアリスは思わず笑ってしまった。
激怒して大暴れされるか、驚かせて泣かせてしまうかもしれないとは思ったが、笑われるとは思っていなかった。
そのせいで勢いのまま、というわけにはいかなくなってしまった。
『青峰君、重い。』
毒気を抜かれるとはこの事だろう。
なんだか自分がしようとしていた事が馬鹿らしく思えて、青峰はアリスの胸に頭を預ける様に体を落とした。
抱き枕じゃないんだけど、とアリスの声と鼓動がよく聞こえる。
アリスの心臓は乱れることもなく、トクントクンと緩やかで、自分のそれの方が激しく音を奏でていた。