第13章 7月 Ⅲ
海合宿最終日の朝、「応援、来て欲しいっス。」とアラームと同時に黄瀬からのメッセージが届いた。
今日はインターハイ準々決勝。
黄瀬のいる海常と青峰のいる桐皇の試合。
合宿は今日で全行程が終了する。
応援に行けないわけでは無いが、この辛く厳しい日々を共に過ごし多少なり仲間意識の様なものがアリスにも生まれており、自分だけ先に帰るとは言い出しにくい。
「合宿あとみんなで見に行くわよ、決勝戦。アリスちゃんも行く?」
『はい、是非!』
会場は外の暑さに負けないぐらいの熱気だ。
みんなで座れる席を確保出来た事が奇跡的。
しかしアリスはなんとなくそこに一緒に座る事を躊躇ってしまう。
結局、トイレに行きたいと一人その場を離れてしまった。
観客席からも離れ、通路の邪魔にならない場所から『応援してるよ、頑張ってね!』と黄瀬にメッセージを送る。
きっと今頃は控え室に入って最終準備をしている頃だろう。
試合を見に来た観客達も中に入り、行き交う人の姿は少ない。
『きゃっ!!』
突然背後から口を押さえられ、体も押さえられた。
何事かと相手を確認しようと振り向こうとするが、がっちりおさえつけられ動けない。
「んだよ、黄瀬なんか応援してんじゃねぇよ。」
声の主には心当たりがあった。
でも、彼がこの時間にこんな場所にいるはずがない。
「久しぶりだなアリス、ちょっと太ったか?」
体を押さえている手がラインを確かめる様に落とされた。
これにはもう我慢できないと全力で彼の手を振りほどく。
『青峰君!!』
パッと手を離し、意地悪そうに笑う。
試合開始までそんなに時間が無いというのに、何をしているのか。
『何してるの?』
「何って。これから試合あんだろうが。」
だから、とムキになってしまっては青峰の思う壺だ。
ここは冷静にならなければ、とアリスは小さく深呼吸をした。
『間に合うんですか?』
「あぁ、大丈夫だろ。」
『余裕ですね。』
「お前に会えたからな。」
は?とアリスは思いもよらなかった言葉に目を丸くした。
「今度は俺の前でも水着着ろよ?」
青峰はそう言うと選手控え室の方へと行ってしまった。
夏の暑さのせいか、青峰に触れられた場所が妙に熱い。