第9章 6月 Ⅳ
インターハイ予選決勝リーグ初戦。
アリスは授業をサボり、その会場へ向かっていた。
目的は火神と黒子の応援と、相手チームにいる青峰に会う為だった。
黒子から初戦の相手校、桐皇学園に青峰がいると聞いたのだ。
だからこの一戦は、二人にとっても絶対に勝ちたい試合だ、と。
しかし、試合会場に青峰の姿は無かった。
せっかく持って来たTシャツだったが、無駄になってしまったかな、とアリスは苦笑いを浮かべた。
「また会ったっスねー!」
『黄瀬君!』
この前はどうも、と満面の笑みで近付いて来たイケメンともう一人。
可笑しなサングラスをかけビックリ箱を手にした緑色の髪。
確かこの前、黒尾と一緒に見に行った試合で誠凛の相手チームにいた選手だ。
誰だっけ、と考えいるアリスとその視線に不可思議な顔をする緑間に気が付いた黄瀬は、あぁ!と。
「二人は初めてっスよね。アリスっち、緑間っち。」
二人を交互に紹介した黄瀬はなぜか誇らしげだ。
「その呼び方はやめるのだよ。」
『あぁ、緑マッチさん!』
どこかイントネーションがおかしいアリスの呼び方に黄瀬は大笑い。
しかし、試合の方は笑って見ていられるものではない。
青峰がいない桐皇を相手に、誠凛は苦戦している。
『タイガ、足大丈夫かな。』
「火神っち怪我してるんスか?」
『怪我っていうか、本調子ではないみたい。』
黒子のトリッキーなプレイでなんとか十点ビハインドまで追いついた。
このまま前半が終われば、後半での逆転は難しい事ではない。
しかし、ラスト30秒で試合の流れは大きく変わった。
『あ、雨宿り君。』
桐皇学園エース、青峰大輝が出て来たのだ。
彼はまだ本調子ではなさそうだが、それでも他の選手とは明らかに動きが違う。
キセキの世代と呼ばれるだけはある。
「なんなのだよ、あれは。」
「青峰っち、本気出してないっスね。」
前半終了のブザーが鳴る。
両校の選手が一時控え室に戻って行く。
誠凛の控え室に行かないのか?と黄瀬に聞かれたアリスは、無関係の自分は入れないよと一言。
観客席で黄瀬、緑間と後半が始まるのを待つ。
『そういえば黄瀬君。』
「涼太でいーっスよ。」
名前で呼んで欲しいアピールをアリスは自然に受け流す。