第68章 完結
それは火神には内緒でみんなで用意したものだった。
ウインターカップ優勝の記念写真、そしてこの前奇跡のみんなと撮った集合写真。
『ずっと応援してるからね、タイガ。』
アリスはそう呟くと火神が愛用していたベッドに倒れ込んだ。
旅立ちの空は青く、火神の乗った飛行機が見えなくなるまでずっとアリスは空を見ていた。
「…泣いてもいいですよ?」
『もう十分泣いたから。それに…。』
こんなにいい天気の日に泣いていたら勿体ないじゃない、とアリスは微笑んだ。
そうですね、と隣で黒子もつられるように表情を和らげた。
二人とも、すでに目元が赤い。
「アリスさん。」
『なぁに?』
「いつか僕がアメリカ旅行に行く時、通訳として一緒に来てくれますか?」
黒子のお誘いに、ちょっと驚いた様な顔をしたアリスは、勿論!と頷く。
きっと、その約束が果たされる日は近いだろう。
今日は練習はなく、このまま空港で解散となった。
このまま帰るのも勿体無いね、と黒子と二人空港を出るとそれを待っていたかの様に、見覚えのある人達が立っていた。
『あれ?みんなも来てくれてたの?』
「やぁ、二人とも元気そうだね。」
「赤司君、紫原君も。」
わざわざ遠方から来てくれていたなら、本人にも会って行けばよかったのに、と言われたが、仲間達の最後の時間を邪魔は出来ないだろ、と赤司は人当たりのいい笑顔で言った。
「俺はたまたま暇だったからな。」
「練習サボって来てるのに、暇だったってのは苦しいっスよ、青峰っち。」
「黄瀬ぇ!」
なんだかんだと騒ぐみんなに、黒子とアリスは顔を見合わせて笑った。
バスケとなるとライバル同士なのに、こうしていると本当はとても仲がいい。
『なんかお腹空いちゃったね。みんなでご飯、行こうよ。』
アリスの一言に、中華だ、焼肉だ、和食だと揉め始める。
「全くお前達…。」
それなら全部あるだろうファミレスでいいだろ、と呆れた様に赤司が取り仕切る。
明日になったらそれぞれ、別の学校、別のチームに戻ってしまうけれど。
今は大事な友人の旅立ちを共に見送り、共に寂しがるのもいい。
『…私、やっぱり日本が好きだな。』
アリスは小さく呟いた。