第68章 完結
アメリカに送る荷物は昨日、業者が引き取りに来た。
残ったのは手荷物として持ち込む僅かなものだけ。
家具や家電はそのまま残す為、みんなが泊まりに来ても不自由はない。
『タイガ、ちょっといい?』
「どうした?」
練習を終えて一度みんな自宅に帰ってから火神の家に集合する事になっている。
しかし、今夜のパーティの為にとアリスは一足先に来て料理をしていた。
『タイガ、私はアメリカには行かない。』
「…あぁ、そうだろうな。」
わかってたよ、と火神は苦笑い。
『Your happiness matters the most to me. I want you to be happy.』
(あなたの幸せが私にとって何より大切。あなたに幸せでいてほしい。)
アリスはそう言うと、精一杯に背伸びをして火神の頬にキスをした。
それは海外生活の長かった火神には、彼女からの別れの言葉だと理解できた。
この言葉は、異性に向けられたものではなく、家族に向けられる言葉だ。
「アリス、Jewel of a treasure.」
(アリス、お前は大切な宝物だよ。)
だからこれも、親愛のバグだ。
コトコトとコンロに乗っている鍋の蓋が揺れる。
『タイガ、元気でね!』
「お前もな、いつまでも泣いてんじゃねぇぞ。」
ぐりぐりとアリスの頭を撫でる。
くすぐったいと笑う彼女の目は涙で潤んでいた。
その後、続々と仲間が集まり、持ち寄られた沢山の料理とアリスが作った手作り。
いつか黒子の誕生日を祝った日の様に、賑やかな時間が過ぎる。
監督特性の暗黒鍋を食べた事も話題に上がる。
今日はこのまま、ここで雑魚寝だ!とみんながゴロッと寝転がる。
「きっとまた、こうやって過ごせます。」
ポツリと黒子の呟いた言葉にみんなが笑顔になった。
そしていつの間にかみんな眠ってしまっていた。
明日は、みんなで空港まで見送りに行く事になっている。
寝坊して大慌てする、なんて事にならない様にアラームをしっかりとセットしたアリスは、そっと部屋を出た。
『…タイガ。』
すっかり火神の私物が片付けられ、主人のいなくなってしまう彼の部屋。
手荷物として持ち込むトランクとスポーツバックが置かれていた。
その中に、そっとアルバムを忍ばせる。