第67章 新9月 Ⅰ
『ちょ、2号?!』
「よしよーし、ちゃんとアリスっちを守ってえらいぞー。」
『涼太?』
「こんばんはっス!」
2号を抱き上げ、よしよしと頭を撫でながらいつもの笑顔を向けてくる。
桃井とあんな話をしたばかり。今はなんとなく会いたくなかった。
『どうしたの、こんな所で。』
「なんか姫が泣いてるような気がしたんスよ。」
『また、そんな事言って!』
火神っちが行っちゃうまで、あと数日だろ?と黄瀬は言った。
幼馴染との別れに悲しんでいるだろうと思っての事だったのだろうが、今のアリスにとっては逆効果だった。
桃井に本音を打ち明けたばかりのせいか、いつも隠している事が上手く隠せない。
火神っち、その言葉だけでビクッと反応してしまう。
「アリスっち?!」
『ごめん、大丈夫だから…。』
散々泣いて、もう出ないと思った涙がまた込み上げてくる。
「大丈夫じゃないっスよ!」
『大丈夫、大丈夫なの、だから優しくしないで!』
「無理っス!好きな女の子が目の前で泣いてるのに!」
ポスンと抱きしめられる。
幼い子供をあやすみたいに優しくポンポンと背中を叩かれ、よしよしと頭を撫でられる。
『…タイガに、ね。アメリカに一緒に来てほしいって、言われたの…。』
「うんうん。」
『でもね、私は行けない…。』
けれど、火神のことを考えるとそれを彼に上手く言えない、火神を傷つけたく無い。
火神は自分にとって、とても大事な人だから、と。
「…アリスっち。それは間違ってるよ。本当に火神っちの事を思うなら、ちゃんと伝えなきゃダメっス。」
『…そう、だよね。』
「俺なら、例えアリスっちにフラれるとしても、ちゃんとアリスっちの言葉で聞きたいっス。」
って、俺はフラれ慣れちゃったっスけどね、と黄瀬はおどけて見せた。