第62章 新 8月 Ⅲ
再戦まであと4日。
なんやかんやと言いながらも、お互いに本気を出し合える仲間達とバスケをする事は楽しいらしい。
今日の練習はここまでだと言われたのに、まだ誰もその手を止めない。
「アリスっち!ちょっと相手して欲しいっス!」
『うん!ちょっと待ってね!』
彼等に混ざりながらも、しっかりとサポートする事を忘れていなかったアリスは、混ざりながらだからこそ気が付いた事を箇条書きにしていた。
それを景虎達に届けたら相手をするから、と黄瀬に言った。
大好きな彼女からの『待て』ならば何時間でも満面の笑みで待てると思っているのだろう、「了解っス〜」とブンブン手を振る姿は2号のそれに重なる。
だからこそ、早く戻らなければとアリスの足は速くなった。
「流石ね、短時間でこんなに…。」
「あぁ、やっぱりアリスちゃんもここに気が付いたか。」
渡されたメモに目を落とした相田親子は難しい表情を浮かべる。
『本人達も気が付いていると思います、きっと。』
「そうね、それは感じたわ。」
個々の技術は誰を上げても申し分ないのだけれど、だからこそチームとしての連携になると微妙にズレが生じてしまっている。
「やるべき事は決まったな!」
景虎はどこか楽しそうにそう言った。
急いで体育館に戻ると案の定、黄瀬はニコニコ顔でアリスを待っていた。
『おまたせ!』
「ぜぇ〜んぜんっス!」
『で、何するの?』
ポンポンと軽くボールをつきながら彼女に近付いた黄瀬の目から笑みが消える。
まるで本気の試合中の様なその目に、アリスの中で警笛が鳴った。
今から始まるのは練習ではなく、ましては軽くバスケして遊ぼうなんて生易しいものでもない、そう本能的に察した。
『まさか、コピーする気?』
「そのまさかっス。」
だからちゃんとアリスっちの本気を見せて欲しいと黄瀬は言った。
今までに何度か彼女とバスケをする機会はあった、実際今日だって一緒に練習に参加しており、その動きやテクニックは目にしている。
しかし、それはどこか遠慮しているような、まだ本気ではないと感じてしまう余裕があるプレイの様に見えていた。
実際、黄瀬はすでにいくつか彼女の得意なフェイントのかけ方や、体捌きのコピーは出来ている。