第6章 6月
タイガも同様、そういえば黒子はどうだっただろうか。
「なんか想像してたのと、ちょっと違うっス。」
『何もないって言ったでしょ?』
生活感はあるのに殺風景。
なんだかチグハグな印象を受ける。
食材を冷蔵庫にしまい終えたアリスは、キョロキョロとリビングを眺めていた黄瀬に声をかける。
『私の部屋はこっち。』
「マジ?!」
行きたいと言ったのは黄瀬だったはずなのに、とアリスは笑う。
階段をのぼり南側バルコニーに面した明るい部屋に案内した。
机とベッド、一人がけのローテーブルとクッションが一つ。
この部屋もまた、生活感があるのにどこか殺風景だった。
唯一置かれていた女子らしい物は大きな姿見ぐらい。
『ご感想は?』
「40点!」
何を採点されたのだろうか。
そしてなんとも微妙な点数に、アリスは思わず吹き出した。
『まぁ、ハハハッ!そうだよね。』
「アリスっちらしいっスけど、もしかして女子力低い?」
『うん。そう思うよ、私も。』
二人で大笑いしてしまう。
女子力が低いと言われたのだ、本当ならば怒ってもいい場面なのだろうがアリス自身その自覚があるせいで、笑ってしまう。
物欲があまりないせいもあるのだろうけれど、基本的に生活必需品に女子力なんて関係ないとアリスは考えている。
『不便しないならいいんじゃないの』と。
その考え方がアリスらしい。
『まぁ、こんなものよ。私としてはここでは二人でゆっくりは難しいからリビングに戻りたいんだけど。』
「そうっスね。」
せっかくの誕生日なんだから、せめてソファーでくつろぐぐらいしたら、とアリスは言った。
促され部屋を出ようと振り向いた黄瀬は、ここにあるはずのない物を見つけ止まってしまった。
それは厳密には世界中に数え切れないほどあるものだ。
だからその内の一つをアリスが持っていてもおかしくはない。
しかし、それには見間違うはずのない印があったのだ。
「ねぇアリスっち。部屋に男を入れた事あるんスよね?」
『んー、何人かいるよ。』
だからどうかした?とさっきまでのご機嫌が消えてしまった黄瀬を不思議そうに覗き込む。
「それ、誰っスか?黒子っち?」
そうだと言って欲しかった。