第5章 5月 II
約六年ぶりに会ったアリスは、驚く程に綺麗な女に成長していた。
また研磨と三人でバレーしたり、遊んだり、なんて考えていた自分が馬鹿みたいに思えた。
帰って来たら当然、俺達のアリスに戻ると思っていた。だから焦った。
俺達の、俺のアリスが他の連中に取られてしまうのではないか、と。
『ねぇ鉄朗君。』
会場を出て街をブラブラ歩き、彼女の家に向かう途中。足を止めたアリスの視線の先にはバスケットコートがあった。
オフクロが悲痛な顔で言っていた、アリスは向こうで事故にあい、手に障害が残ってしまった、と。
きっとアリスはバスケもバレーも好きなまま、理不尽に取り上げられたのだ。
「ここ、ガキの頃によく来たよな?」
『そうそう。ここでバレーやったりバスケやったり。』
あまりにも嬉しそうに話すから、彼女の言葉全てに同意した。
でも自分の記憶には、アリスとここでバスケをした思い出はない。
『そういえば、あの人もここで会ったんだ。』
「あの人?」
雨宿り君、とアリスは笑った。
名前を聞きそびれてしまったが、きっとバスケが好きなのだろう。
将来、自分もアメリカに行ってプレイしてみたいと話していた。
二人で雨に濡れて、雨宿りさせてあげた事をアリスは楽しそうに話した。
『忘れてったTシャツ、返せてないんだよ。』
ロードワークに出たら必ず寄ってるんだけど、会えないんだよねとアリスは言った。
チクリ、と胸が痛む。
「捨てちまえよ。」
『えー!?』
「どこの誰かも知らないんだろ?」
そっか、とどこか残念そうな顔をした。
昔のアリスはこんな女らしい顔をしただろうか。
そうさせているのが自分ではない事に、苛立ちに似た感情がフツフツとわいてくる。
「なぁ、アリス。」
『なに?』
手を繋いで歩いている事にアリスは特別な感情など持ってはいない。
だから腹減ったからなんか食おうなんて適当な話題に誤魔化してしまった。
もし、アリスに本音を告げて思いが通じ合わなかったら、今のこの関係も一緒に失ってしまうだろう。
「あー、バレーやりてぇな。」
それはアリスが好きで仕方がない、と言えない裏返しのセリフだった。