第43章 2月 II
2月14日、月曜日。
いつもの時間に鳴り出したアラームを止めたアリスは、机の上に置かれた可愛いラッピングの施されたチョコマフィンを見てふわりと表情を和らげた。
昨日、桃井と一緒に作ったそれは誠凛バスケ部員全員分の数があり、一人一人に向けて書いたメッセージカードが添えられていた。
『喜んでくれるかなぁ。』
忘れない様にそれを可愛らしい紙袋にまとめて入れたアリスは、リビングへと降りる。そこにはまだチョコの甘い匂いが残っていた。
今日の朝ごはんは残ったチョコマフィンと卵サラダ。
時計代わりにつけたTVをぼんやりと眺めながら、マフィンを齧ると思っていたよりも美味しく焼き上がっており、これならばみんなに渡しても大丈夫だろうと頬が緩む。
朝食を済ませ、後片付けをしたアリスは洗面所へ向かう。
身支度を整え自室に戻ると、スマホが新しい通知がある事を光って知らせていた。
『…涼太から?』
数分前に黄瀬から着信があった事を知らせており、アリスは直ぐに折り返す。
「アリスっち!助けて!!」
『え?』
「追われてるっス!」
いつもとは違う、本気で慌てているその声にどうしたらいいのかアリスも慌ててしまう。
『今どこなの?』
「アリスっちの家の近くまで来たっス。」
それを聞いたアリスは急いで外に出た。
キョロキョロと左右を見ると、涙目の黄瀬がスマホを手に走ってくるのが見えた。
『涼太!』
「アリスっち!」
うわぁ〜ん!と涙目で飛び込んで来た黄瀬は、アリスを抱きしめたまま、彼女の家に逃げ込んだ。
怖かった、と大きな体を震わせる黄瀬を落ち着かせようと優しく背中を撫でる。
玄関先で話すのもなんだから取り敢えず上がって、と黄瀬を促す。
リビングのソファーに座った黄瀬は、やっと安心できたのか大きな溜息を吐いた。
『何があったの?』
「ヴァレンタインはいつもこうなんスよ…。」
ファンの女の子に追われて学校に行くのも一苦労なんだと黄瀬は言った。
しかも今年は自宅付近までファンの子が来ており、そこから逃げて飛び乗った電車がたまたまアリスの家へ向かう方向だったらしい。
『…それはまた災難だったね。』