第37章 WC Ⅲ
年末の日本の風習、大掃除をするぞと朝から割烹着に三角巾を巻いたガタイのいい中年男はどこで買ってきたのか、今時珍しいハタキとホウキを手に張り切っていた。
『…パパ、普段からちゃんと掃除してたし。特別な事はしなくても大丈夫だよ。』
第一、定期的にハウスキーパーが来る様に手配していたのは克哉だ。
学校生活で大変だろうからと週に二回、家事代行サービスが如月家には入っている。
それに年内最後のサービスが今日入る予定だとアリスは言った。
「そうなの?」
『だからやるならパパのお部屋の荷物の整理をさしたら?』
まだ正式な帰国の日取りが決まらず、取り敢えず向こうの生活で使わない物だけが先に運び込まれている。
それはそのまま、克哉の寝室のクローゼットの中に置かれたまま。
以前、青峰が来た時はその荷物から服を拝借したがそれ以来、アリスは彼の荷物に触れていない。
「なんだ、そうか。なんだかそれはそれでつまらないな。」
『それに私、午後は出掛けるよ?』
「試合観に行くんだろ?」
しっかり応援しておいで、と克哉はアリスの頭を撫でた。
子供扱いだと、嫌がる口調だがその表情は柔らかい。
久々の父娘水入らずの戯れ。
しかし、それはすぐにアリスのスマホが鳴り出し終わってしまった。
『えー?!それ、どうするの?一応聞いては見るけど…。』
電話の邪魔をしてはいけない、と静かに退室しようとした克哉をアリスは慌てて呼び止めた。
どうやらまだ、電話は繋がったままらしい。
『パパ!足のサイズ、いくつ?』
「なんだい、急に。29だけど。」
『ダメだ、5ミリ足りない…うん、うん。わかった、じゃあ私もすぐ行くよ。』
なんなんだ?と事情が全くわからない克哉だが、アリスが何かに焦っている事だけはわかった。
「どうかしたのか?」
『タイガのバッシュ、替えがなくて探さなきゃいけなくなったの。』
もし、克哉と足のサイズが同じならば、彼の私物の中に何足かそれがあったはず、とアリスは考えたらしい。
しかし、火神の方が少し大きくサイズが合わない。
ただ、ちょっと遊ぶ程度ならばそのぐらいのサイズ差は気にしないが、火神はこれから大事な試合があるのだ。
「予備を用意してなかったのか?」
『そうらしいの。』